前回までのあらすじ
クルマ大好きな父と、よく性格の似た姉だけど、ぼくはクルマやメカには弱い。
母が五年前に突然、事故で亡くなり、姉も海外へ行ってしまった。 残された父とぼく、そして姉のクルマ。
姉のクルマはぼくが受け継ぎ、父も古いeタイプを手に入れてきて、一緒に面倒を見つづけた。
こんど、久しぶりに姉が帰国することになったので、空港へ姉のクルマで迎えに行くことに。
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根っからの運転好き
空港へはオヤジが運転する。 根っから好きなんだな。
若い頃は、何の運転手かしらないけれど、色々やっていたらしく、荷物を運んでいたのか、人を運んでいたのか、空気をただ早く運ぶことを競っていたのか、雨が降ろうが槍が降ろうが走っていたらしい。
槍は降らないにしても・・雪の日なんか、すべっちゃって大変だろうなと、運転のあまり得意でないぼくは思う。
なかなか謎な父の過去
クルマだけでなく、バイクにもうるさく、バイク屋でも働いてたことがあるというオヤジは、いまは小さいが自分の会社をもっているけれど、いろいろと若い頃はあって、苦労をしたみたいだ。
外国にも長いこと行ってしまってたとか、そういえば昔、母が言っていたなぁ。
だから姉ちゃんもそうなのか。
「働いてたバイク屋でな、教わったのは、中古のヤツを納車前に、プシュっとひと吹きスプレーして、一応見た目は光るようにして仕上げるんだけれど、これがまぁにわか仕上がりでな、ひと雨降りゃイチコロよ」
「数だけ売りゃいいってヒドイ店だったな、学んだ事もおおかったけど」
「やっぱりキチンとワックスかけねえとな」
空港への道中、ぼそっと繰り出される、オヤジのそんな話を聞いていた。
レインダンス
道中、雨はよく降り続き、助手席のぼくからは、ワックスのよおく効いたボンネットに、水玉がたくさん弾かれているさまが見てとれる。
じゅうぶんに表面張力を得て、浮きあがったその水の玉たちが、オヤジの手馴れた運転のやさしいGによって、さまざまな方向に踊ったり、そして落ちていく様子がなかなか面白い。
レインダンスとはよくいったもの。 自分の運転じゃ、これを見る余裕はなかったな。
じつは昨日、実家に行く前にちゃんと洗車は済ませておいてある。
こんな雨の日は晴れているときよりも、よく洗車が行き届いているかがわかってしまう。 ごまかしがきかないんだ。
本当にしっかりと磨けてないと、こんなに雨粒は踊らないはず。
姉ちゃん、そして母
そんなことをふと思っているぼくの心を見透かしたのか、
「そういえば、姉ちゃんのクルマ、キレイに乗ってるよな」
「きのうあれからちょっと覗いたんだけれど、外はあたりまえにしても、中も掃除が行き届いてて感心だよ」
「そういえば母さんも、キレイ好きだったからなぁ」
あれから、めったに母のことを話さなかったオヤジだけれど、今日はなんだか違うみたいだ。 姉ちゃんが帰ってくるから嬉しいんだな、やっぱり。
そう、母の遺伝で、ぼくはキレイにすることに関しては人一倍、好きみたいだ。
何かイメージと…違う人
オヤジとふたり、空港のターミナルビルで姉ちゃんたち一行の到着を待ち、しばらくすると、人がざわざわと沸いてきて、その人の群れのむこうにひときわ背の高い、あたまひとつは飛び出している、あきらかに日本人ではなさそうな人が見えてきた。
旦那さんはあの人かも・・・
となりに姉ちゃんがいるから、やっぱりそうだ。 ひさしぶりだ。 赤ちゃんを抱っこしている。 とても元気そうで、顔が輝いて見えた。
旦那さんは、背が高いのもそうだけれど、体のつくりもひとまわりは大きく、ひげ面でたくましい感じで、ぼくはちょっと近寄りがたい雰囲気。
クルマだけでなく、英語にも疎いぼくが、彼のそんな「なり」にちょっと気後れして話しかけられずにいると、すかさずオヤジが旦那さんにかけより・・・
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