ショート・ストーリー 【ひとすじあざやかに輝きおちる】

コラムと読みもの

 

 

『ひとすじあざやかに輝きおちる』ショート・ストーリー

 

まえがき

クルマ好きな父と性格のよく似た姉。

だけど、弟の僕はクルマとメカには弱い。

五年前に母が突然亡くなり、姉も、彼氏と別れた傷心から外国へ行ってしまった。

残された父、姉のクルマ、そして僕。

姉のクルマを僕が受け継ぎ、父は母と同い年の古いクルマを手に入れ、一緒に面倒を見つづけた。

 

 

 

 

 

「こんな炎天下なのに洗車してるのかよオヤジは、ったくようやるわ」

久しぶりに実家に帰ると、といっても2週間ぶりで、クルマで10分とかからないけど、なんだっけな、あのクルマは・・・イギリスの古いクルマでジャガーとか言ったっけ。

こんど姉ちゃんが久しぶりに(これは本当にひさしぶり)帰国するもんで、オヤジ張り切りすぎだろ。 まさかあれで空港に乗り付けるつもりか?

磨いてるガレージは日陰なんだろうけど、真夏のワックスがけはボディに良くないからやるなって言ってなかったっけ・・車キチ●イにも程がある。 身体にもよくなさそうだし。

 

 

 

 

 


 

それは別として、遠目から見ても、50年も前のクルマとは思えないほどキレイだ。
手をついつい掛け、可愛がるのもわからないでもないけれど、買ってきた冷たいのをひとまず差し入れして、作業を強制終了させよう。

近くによると、輝きはもちろんのコト、ボンネットに布をおいたら、すうっとすべりおちそうなくらいに手触りも上々のようだ。

そして見た目だけでなく、とうぜん中身にもよく手が入っているらしく、シャシーからエンジンからなにからフルレストアし、故障なく乗れるようにして、最近の日本の酷暑にも耐えられるようにエアコンをつけたらしい。

ただ、オヤジいわく、エアコンはあんまり使いたくないと言っている。

エンジンのフィーリングが違うんだそうだ。 僕にはようわからん。
そして僕はクルマやメカにはどちらかというと疎い。

 

 

 


 

今日、僕が乗ってきたのは姉ちゃんから預かっているクルマで、彼女が外国に行くときに、

「アンタ、ぶつけたり、壊したりしたら承知しないわよ」

と言い残して行ってしまったので、仕方なしに僕が引き継いで乗っている。

オヤジのクルマほどじゃないけれど、姉のこのクルマもそれなりに古い。

80年代なかばぐらいの国産のクルマで、その頃だとエアコンは最初からついてたみたいだれけど、その時代らしいシンプルなデザインで、色は白と黒のツートンカラー。

これはこれでスッキリしていて、僕はあんがい気に入っている。

豆腐屋の息子がこれですごい走りをして、速いクルマたちを打ち負かすっていう漫画があったけれど、きっとウソだな・・・マンガだもの。

僕にはそんな事はできそうもない。

 

 

 

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クルマ好きな姉は、メンテナンスは欠かさずによくしていた様だったけれど、僕が引き継いだとき、外観はかなりほこりにまみれて疲れていた。

その時は、きっと姉ちゃんのこころも似たような状態だったのだろうと思う。

姉ちゃんが遠くに行ってしまってから、僕はまずこのクルマをキレイにしようと思った。

クルマに詳しくない僕でもできる事はそれだった。

僕はクルマには詳しくなくて、そして運転も上手ではないけれど、亡くなった母に似たのか、キレイ好きなところを受け継いだみたいで、ひとまず外見を仕上げたあとは、内側にも手をつけ始めて、トコトン掃除をした。

いちどキレイにしてしまうと汚すのはもったいない。
もとの状態もよかったのか、年式が古い割には、塗装はまだ艶を失なっていなかった。
そんな状態をできるだけ維持しようと、僕はワックスがけを欠かさずにするようになり、時間を見つけてはていねいによく磨いた。

メンテナンスは、信頼のおける近所の姉のなじみの小さな修理工場に引き継いでお願いしてきたから、クルマの調子はかわらずに維持できている。

 

 

 

 

 


 

この姉のクルマはレビンという車名で、もちろんクルマにもそれが書いてあるのだけど、会う人会う人が、たいていなぜかレビンとは言わずに、「ハチロク」といわれるのが不思議でしょうがなかったけれど、何かそれは「86」というクルマの型式であることを僕は後から知ったのだ。

クルマ好きのオヤジの血を濃く受け継いでいる姉が、大事にしていた、「ハチロク」はよく、

「キレイに乗ってますねぇ」

と見知らぬ人から、ふと声をかけられることがある。

一皮むけばキレイで、状態のいいまま姉から引き継いだだけで、それを維持しているだけの事と・・あと、もし、ぶつけたり壊したりしたら、気の強い姉ちゃんに何をされるかわからない怖さもあったのかもしれなかったけれど・・・そんなとき僕は、

「いえいえ、これは姉のクルマなんです」

などとは言わずに、僕はただ、そっと微笑むだけにしておいた。

そういえばこのクルマ、姉ちゃんと同い年位だったかもしれない。

 

 

 

 

 

>>>『ひとすじあざやかに輝きおちる』 2 につづきます

 

 

 

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