ショート・ストーリー 『 ひとすじあざやかに輝きおちる 』 4

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『ひとすじあざやかに輝きおちる』ショート・ストーリー

 

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ショート・ストーリー 『 ひとすじあざやかに輝きおちる 』 3
雨のなか空港へは父がドライブし、やさしいGの運転で雨粒がハチロクのボンネットで踊る。 離れ離れになっていた家族の再開のとき。 人ごみの中から、ぼくの知らないいかつい感じで近寄りがたい雰囲気のガイジンが近寄ってきた・・・

 

 

前回までのあらすじ

空港での久しぶりの家族の再会のとき。

しばらく外国に行ってしまっていた姉が帰ってくる事になり、旦那さんになるという人と、赤ん坊も一緒だという。ここへは親父とふたりで、姉の残していったクルマで来た。

母はもうすでにこの世の人ではなく、ぼくの家族は、この姉と親父だけ。クルマ好きの親父と姉、クルマやメカには弱いけれど、母の遺伝かキレイ好きなぼく。

ターミナルの人の群れのなかに、姉ちゃん一行らしき人たちがみえて来て、背が高くひげづらで、まわりの日本人よりひとまわりは大きい、旦那さんと思われる人にすかさずオヤジがかけよっていき・・

 

 

 

 

 

 

 

「グラド シーヤ マイト」

と呪文のように聞こえるあいさつをして、さっと握手を交わした。

それは映画で見るような欧米人どうしの旧知の友の再開みたいにぼくには感じられた。

こいつはやられたと思いつつ、あとから知ったのだけれど、それはある英語圏の国のなまったあいさつで、いつもとちがうオヤジを見た気がした。

そういえは向こうで生活してたんだっけ。

ポツンと、あっけにとられていたぼくに彼が近寄ってくる。

「あ。 あ。」

と口をひらいてなにか英語であいさつしなきゃと、あせったぼくを見て、彼が先に言ったのは、

「こんにちは、はじめまして」

で、

「あ、こんちは」

とだけ、ぼくはさらにあっけにとられて、それだけようやく返すことができた。

てっきり英語でベラベラくるものと身構えていたから、内心おどろいたけれど、ごくフツーの日本語で来てくれて、安心はしたものの、なにか妙な気分がした。

 

 

 

 

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空港のターミナルを出るときに雨はもう上がっていた。

すこし距離があるので、赤ん坊の抱っこを姉ちゃんから旦那さんである彼に交替し、一同、そろって歩いて駐車場へとむかう。

オヤジはさっきから身軽になった姉ちゃんとばかり話している。話に花が咲いているようで、後をついて来ているけれど、たびたび立ち止まるから、距離がどんどん離れていく。

ぼくは姉ちゃんの旦那さんである彼と二人でなんとなく先を行き、ようやくポツリポツリと会話をしはじめた。

ぼくにとって、はじめてのこんなに近いガイジン体験。
でも、見た目のデカくていかつい感じとちがって、ぼくに接する彼は物腰がやわらかく、さっきのあいさつの第一印象もそうだけれど、なんか中身が日本人みたいな気が少しした。

いくら日本人である姉ちゃんを好きで、仮に日本の国を大好きだったとしても、こうまで日本人っぽくはならないだろと少し勘ぐっていたら、彼はなにかそういう大学の先生で、そこで日本の事を教えているんだと、ごくフツーに彼が日本語で話してくれたので、その日本語の異常なうまさと、物腰の柔らかさに納得がようやく行ったのだった。

 

 

 

 

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駐車場までは10分くらい。

オヤジと姉ちゃん、ぼくと彼、そして彼に抱っこされた赤ちゃんの5人が、つかず離れずにゆったりと歩いてゆくのだけれど、そうしていることが、なにかわすれていた一種の家族感のような懐かしさを、ぼくに思い起こさせた。

そんな、和やかに思える雰囲気だったのだけれど、駐車場に着き、彼が、姉の水玉をびっしりとたたえたハチロクを見つけたとたんに、彼の目の色が変わったように見えた。

いきなり、ぼくの方に向き直り、姉から抱っこを代わっていた赤ん坊を、ぼくにを託して離れ、ハチロクに駆け寄った。

そして、

「ジィーザス マイガー」

と、動物が目覚めたみたいに、外人モードに切り替わり叫んだ。

さらに、頭に両手をやって大声でいろいろ唸った。

「ビューティフル ブリリアント ブラディ アメイジング」

こんな感じの英語・・だったかな・・・
それらは何を意味しているのかよくわからないけれど、でも何か賛辞のようであり、うれしいびっくりらしく、うんうんこれでこそガイジンだと、そんな彼のリアクションに最初はすこし引いたけれど、すぐぼくはちょっと安心したのだ。

 

 

 

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今年30才にもなろうかという、いまだ輝きを保っている姉のクルマの「ハチロク」にかぶりつきはじめた彼。

ただ単にこのクルマが好きなのか、クルマのキレイさにびっくりしたのか、ワックスの雨粒のはじき様におどろいたのか、何かのマニアなのかわからないけれど、ガイジンぶりに安心のあと、今度はそんなかぶりつく様子に目が点になりつつあった、ぼくと女の子の赤ん坊。

彼はこの子を軽々と自然に抱いていたけれど、慣れないぼくの抱き方は、ちょっとぎこちない。けれども、そんなことは気にしてない様子で、ぜんぜんむずがらなくて、かわいい。そういえば、この子はぼくにとっては姪にあたるわけで、彼女にとって、ぼくはオジさんだ。

よくみると瞳こそ青いんだけれども、昔見た、姉のとても小さい頃の写真の面影が感じられた。そして、まだちいさいその手には、お人形さんやぬいぐるみではなく、女の子だけれども、ちいさなクルマのおもちゃらしきものが握られていた。

なんかのミニカーかなと、ぼくがそれを取ってみようとしたら、しっかりと握って離そうとしない。

 

「 ! !  なんか白と黒の見たようなヤツ ! ! 」

彼のうれしいびっくりの理由のひとつがわかった気がした。

彼は姉ちゃんと釣り合うぐらいの相当のクルマ好きか・・女の赤ん坊にこんなハチロクのオモチャを持たしているようじゃ、ちょっとこの子の将来が思いやられなくもないな・・

とかそんなことを考えていたら、抱きなれないぼくからあっさりと、そして軽々とオヤジが、赤ん坊を慣れた手つきでひょいととりあげた。歩いてるうちに、いつのまにか距離ができてたけれど、もう追いついた様子で、姉ちゃんも来ている。

子供をあやすこんなオヤジは、はじめて見る。

いや、はじめてじゃないんだ。 ぼくたちも、そうされていたのか。ぼくが小さくて覚えてないだけ。

孫になるわけか・・・オヤジ、とてもうれしそうな顔。

 

 

 

 

 


 

母が亡くなり、姉ちゃんもいなくなって、家族はちりぢりになったように見え、なにか先の見えない感がつきまとったあのころ。

同時期にぼくも仕事をするようになり社会に出て、とまどいの多い、ぐちゃぐちゃで忙しい日々を送りはじめたけれど、姉ちゃんのクルマを磨くことだけは欠かさなかった。

いや、なにかそうしているときだけは、日常のイヤな事を忘れることができたからかもしれない。

姉ちゃんがいつか帰ってくることを信じてそうしていたのか、クルマをよごして、姉ちゃんに怒られるのがただ怖かっただけなのか、それはわからない。

ぼくがそんな頃にオヤジは、これよりもさらに古く、けれども美しいクルマを手に入れてきた。そして磨いた。

ときには一緒に。

 

 

 

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時を経て、輝いて帰ってきた姉ちゃん。
姉ちゃんのクルマも輝きを失っていない。

そのクルマを愛でるように眺めている旦那さんに、姉ちゃんが寄り添っていき、ぼくに顔だけ向けてこう言った。

「ありがとね キレイなままにしといてくれて」

ぼくは何も言わずに、ただ微笑んだ。

オヤジは孫である赤ん坊をうれしそうに抱っこしていて、その赤ん坊の手には、姉ちゃんと同じクルマのミニチュアがしっかと握られている。

長いあいだ、こころに開いていたスキマがうまっていくような気がした。
そして、今はここにいない母のことを思った。

雨雲はすでに遠くなり、空はすっかり晴れ渡った。

路面も乾き、クルマに残った水玉だけが雨のなごりを思わせた。

クルマのキーをオヤジから託された彼。 運転する気らしい。
やっぱりな。

そうして先にクルマに乗り込んだ彼が、キーを回しこみ、エンジンを一発で掛けると、
ワックスのよくきいたボンネットから、水玉がひとすじあざやかに輝きながらおちていった。

 

 

 

おしまい

 

 

 

 

 

 

 

ひとすじあざやかに輝きおちる

 

2台の古いクルマとそれをとりまく家族のストーリー。

クルマ大好きな父、僕はクルマとメカには弱い。

いまは亡き母。姉も遠い国にいる。

ある晴れた暑い日に僕が久しぶりに実家に行くとせっせとジャグワーEタイプを磨く父がいて、そして物語が動き始める。

 

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いかついガイジンは姉ちゃんの旦那さんだった! 慣れたオヤジはまるで洋画のワンシーンみたいにさっと挨拶をかわす。 青いひとみのまだちいさい姪を抱き、5人そろって家族みたいに雨上がりの駐車場へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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