雲と追いかけっこを 1986 パート4

コラムと読みもの

投稿日2012-08-06(So-netブログ)

都会をあとにして、夏の房総にむかうふたり。

鈍行をのりつぎ、平日の人の流れとは逆の方向に、終点をめざし、その先の海へ。

■ 前回話  ・雲と追いかけっこを 1986 パート3

雲と追いかけっこを 1986 パート3
投稿日2012-07-30(So-netブログ) 高校生活最後の夏休みに、合宿を終えて、夜行列車で帰ってきた男女4人。 東京駅で解散したあと、ぼくと彼女だけ、房総半島に向かう。 ■ 前回話  ・雲と追いかけっこを 1986 パート2 ‎ ぼ

 

駅の外は日差しが既に強くなっていて、気温はもう30度近くあるのだろう。

探していたお店もないので、仕方なく駅に戻り、ホームの売店にあるものでとりあえずお腹をみたした。

空腹から開放され、やや落ち着いた二人。


そして再び、下り方面の空いた電車に乗り込む。

今では電車内の冷房は当たり前だけれど、当時は暑ければ窓を開けて風を入れ、天井から扇風機がぶら下がり、独特のリズムで首を振っていた。

定刻となったので電車は静かに走り出した。

ボックス席に二人、進行方向に彼女、対面の窓際にぼくがすわった。

ぼくには進行方向の流れていく景色と彼女の両方が視界に入る。

繁忙期でない夏休み中の平日の午前、車内に人はまばら。

カンカン照りの夏空の下、モーターの唸り音をあげて再び電車が海を目指して行く。


あのとき、何の話しをしたんだろうか、今となっては思い出せない。

きっと、とりとめのない話はしたと思うけれど、とくに無理に話す必要も無かったのかもしれないし、二人とも黙っていても苦痛でなく、不思議な意思の疎通があった気がしていた。

そして彼女のふしぎないい香りはあいかわらずだった。

本当にごくたまに風に乗ってくる微妙ないい香りがするたびに、心がすこしざわめいた。


車窓に遠く、海が見えて来た。

複線だった線路は単線になり、トンネルとカーブが増えてきた。

単線なのでいくつかの駅に停まると長く停車する駅がある。 上り線の待ち合わせをする為だ。

やけに長く待つ駅があるなぁと思ったら、特急が追い越して行った。

すべてがスローに感じられる。

そして、しばらく走ると線路は海岸に沿うようになり、いくつものカーブにレールを軋ませていく。

あまりの暑さに入道雲が出てきた。 進行方向に大きくのしかかっている。

底は暗く「雨あし」らしきものも見えている。

 

パート4 おしまい

 

■ 次回話 ・パート5

雲と追いかけっこを 1986 パート5: ライフスタイル・ファクトリーズ
カンカン照りの真夏の日差しの下、内房線がゆったりとしたリズムで南へむかう。 行く手に入道雲がわきたち、ボックス席のふたりの関心を誘った。 ■ 前回話  ・雲と追いかけっこを 1986 パート4 列車がまるで生き物のように車体をくねらせて海沿

 

パート1

雲と追いかけっこを 1986
高校生活最後の夏休み 男女4人が青春18きっぷで夜行列車の狭いボックスシートにおさまり東京駅に向っていた 対面のS君とYさんに恋がめばえるかがぼくと彼女のひそかな楽しみでその様子を狸寝入りしつつ盗み見していた共犯二人はやがて睡魔に襲われて…

パート2

雲と追いかけっこを 1986 パート2
投稿日2012-07-24(So-netブログ) 高校生活最後の夏休み。 合宿を終えて、夜行列車で帰ってきた男女4人。 ■ 前回話  ・雲と追いかけっこを 1986 パート1 列車はいつのまにか早朝の東京駅に到着していた。 直立のボックスシ

パート3

雲と追いかけっこを 1986 パート3
投稿日2012-07-30(So-netブログ) 高校生活最後の夏休みに、合宿を終えて、夜行列車で帰ってきた男女4人。 東京駅で解散したあと、ぼくと彼女だけ、房総半島に向かう。 ■ 前回話  ・雲と追いかけっこを 1986 パート2 ‎ ぼ

パート5

雲と追いかけっこを 1986 パート5: ライフスタイル・ファクトリーズ
カンカン照りの真夏の日差しの下、内房線がゆったりとしたリズムで南へむかう。 行く手に入道雲がわきたち、ボックス席のふたりの関心を誘った。 ■ 前回話  ・雲と追いかけっこを 1986 パート4 列車がまるで生き物のように車体をくねらせて海沿

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ショートストーリー、エッセイやコラム的なもの、旅行記やクルマに関するストーリー、書くのが好きで色々と書いています。 お暇な方はどうぞお楽しみください!!

ショート・ストーリー 【ひとすじあざやかに輝きおちる】

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2台の古いクルマと、それをとりまく家族のストーリー。 クルマ大好きな父だけど、なぜかぼくはクルマとメカには弱い。 いまは亡き母。 姉も遠い国にいる。 ある晴れた暑い休日、ぼくが久しぶりに実家に行くとせっせとクルマを磨く父がいて、そして物語が動き始める