投稿日2012年7月21日(So-netブログ)
時は1986年で、ぼくには高校生活最後の夏休みだった。
夏休みのとある合宿に参加して帰る途中のぼくたち男女4人は夜行列車で東京駅に向っていた。
対面の座席にはS君とYさんが座っている。
この小旅行の間に、ふたりに恋がめばえるかが、ぼくと彼女のひそかな楽しみだった。
日程は三日間で行先は岐阜県。
青春18きっぷを使い、行きも帰りも鈍行で、宿とかに泊まれるわけではなく深夜に現地着の駅泊で、合宿はその翌日だけで夕方にはもう帰路につき、またもや鈍行列車で車中泊をするという強行軍の旅。
行く時は三人で横浜駅に集合し、Yさんは自宅が東京なので現地で合流して帰りだけ一緒になったので、男女二人づつの四人になったのは帰りだけの事。
そしていま4人は合宿を終えて東海道線上を東へ向かう165系電車の狭いボックスシートにおさまり、とりとめの無い話をしたり、ふざけたりしていたけれど、だんだんと夜も更けてきて車内が静かになってきた。
「ぼくと彼女」
なんて書いてしまったけれど、彼女は彼女ということではなく…S君とYさんも特にそういう関係ではなかった(そういう素振りを見せなかっただけかも)ので、こうしてボックスシート上でお似合いの対面の二人を見ていると、付き合ってしまえばいいのにと感じるのがぼくと彼女の共通の認識だったし、それにこの話は以前からあった事でもある。
そういう訳なので対面座席のS君とYさんのお二人さんはお互いを意識し過ぎてしまっているのかもしれず、なにかとてもぎこちないところがある。
4人で喋っているうちはフツーに前に向いていた体が、車内が静かになって、ほぼ8割がたの人がまどろむ状態になると二人の体の向きが不自然にお互いそっぽを向き始めた。
S君は通路に大きくはみ出す感じでほおづえをついて、寝に入ってしまったようだ。
Yさんも窓側に45度くらいは傾いている。
ぼくと彼女はこっち側からそんな様子を見ていて、深い眠りに落ちてしまえば無意識のうちにくっつきそうな対面のふたりを期待しながらうす目で見たりしていたけれども、なにも起こらなかった。
そして、盗み見していたぼくと彼女の共犯二人もやがて睡魔におそわれていく。
線路の心地よいジョイント音にさそわれ、眠りに落ちてしまった。
パート2につづく
■ 次回話 ・雲と追いかけっこを 1986 パート2
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ショート・ストーリー 【ひとすじあざやかに輝きおちる】
縁は異なもの(Marriages are made in heaven)