投稿日2012-08-06(So-netブログ)
都会をあとにして、夏の房総にむかうふたり。
鈍行をのりつぎ、平日の人の流れとは逆の方向に、終点をめざし、その先の海へ。
■ 前回話 ・雲と追いかけっこを 1986 パート3
駅の外は日差しが既に強くなっていて、気温はもう30度近くあるのだろう。
探していたお店もないので、仕方なく駅に戻り、ホームの売店にあるものでとりあえずお腹をみたした。
空腹から開放され、やや落ち着いた二人。
そして再び、下り方面の空いた電車に乗り込む。
今では電車内の冷房は当たり前だけれど、当時は暑ければ窓を開けて風を入れ、天井から扇風機がぶら下がり、独特のリズムで首を振っていた。
定刻となったので電車は静かに走り出した。
ボックス席に二人、進行方向に彼女、対面の窓際にぼくがすわった。
ぼくには進行方向の流れていく景色と彼女の両方が視界に入る。
繁忙期でない夏休み中の平日の午前、車内に人はまばら。
カンカン照りの夏空の下、モーターの唸り音をあげて再び電車が海を目指して行く。
あのとき、何の話しをしたんだろうか、今となっては思い出せない。
きっと、とりとめのない話はしたと思うけれど、とくに無理に話す必要も無かったのかもしれないし、二人とも黙っていても苦痛でなく、不思議な意思の疎通があった気がしていた。
そして彼女のふしぎないい香りはあいかわらずだった。
本当にごくたまに風に乗ってくる微妙ないい香りがするたびに、心がすこしざわめいた。
車窓に遠く、海が見えて来た。
複線だった線路は単線になり、トンネルとカーブが増えてきた。
単線なのでいくつかの駅に停まると長く停車する駅がある。 上り線の待ち合わせをする為だ。
やけに長く待つ駅があるなぁと思ったら、特急が追い越して行った。
すべてがスローに感じられる。
そして、しばらく走ると線路は海岸に沿うようになり、いくつものカーブにレールを軋ませていく。
あまりの暑さに入道雲が出てきた。 進行方向に大きくのしかかっている。
底は暗く「雨あし」らしきものも見えている。
■ 次回話 ・パート5
パート1
パート2
パート3
パート5
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ショート・ストーリー 【ひとすじあざやかに輝きおちる】