金の力にあかせて宇宙旅行にやってきた、成り上がりのイケメン二人。
トラブルが起き、地上から孤立してしまう。
その後運良く宇宙ステーションに遭遇し、ドッキングはしたものの、彼らがまずしたのは、通信回復や機器の修理よりも、自分たちの食欲を満たすための行動だった。
緊急用の宇宙食はたくさん積んでいて当分飢えることは無いにもかかわらず・・・
苦労を知らず、およそ弱いものの立場など、どこ吹く風という感じの強がる彼ら。
宇宙にむりやり連れてこられて、瀕死な二匹のペットの容態が案じられる。
なぞの宇宙ステーションには、
< cuisine 食ナントカ >
とおぼろげに読めるセクションがあり、そこで何か食わせろとの思惑で、
< ウェルカム >
と書いてあるハッチをそそくさと開けて、その中の調理室へと、欲望むきだしの傍若無人な二人が進んでいく。
調理室へと通じる、
チューブというか、地上の建物で言えば廊下の部分のディスプレイに、
・ルール
< アクセサリーを全て外してください >
との表示がされ、少し首をかしげたくなったけれど・・
まさかこんな場末のステーションで盗むヤカラもいないだろうと、最近換えたばかりのPPのスマートウォッチ、ピンクダイヤのリングなども、相棒と目線をあわせながらも外して、それらを指定のトレイに置いて、ふたりは調理室の扉をあけた。
調理室の中は、日焼けサロンを思い起こさせるような、無機質なベッドがふたつ置いてあるだけの部屋。
< 当ステーションでのルールをお守りいただきありがとうございました >
< あとはこちらのボディローションを体にまんべんなく塗り横になっておまちください >
とここへきて何故か、今までのようなディスプレイ表示ではなく、紙に書かれているメッセージが、ぽつんとベッドの真ん中においてある。
いや、それは紙ではなく、そのしわしわ具合からそいつはどうも食材のように思えた。
なにか、寿司を巻くためにつかう昆布の白いヤツ??
そして、ボディローションの匂いを嗅いでみると、ココナッツ油がベースのようで甘い香りはわかるのだけれど、そのなかにいくつものスパイスがまじっていて、調味料というかタレというか、食欲を思い起こさせる、そんなニオイがしている。
「どうもおかしい」
「なにかがおかしい」
金の力にあかせて贅沢な生活をしてきて、感性が鈍くなっていた彼らもようやく気づいたようだ。
「ドッキングの時、 cuisineナントカって、看板の日本語のところが煤けてただろ」
「あれ、喰い人って書いてあったんだ、人を喰うってことだろ、冗談じゃねえ」
「この調理室ってのは奴らのオーブンだ、おれたちを調理する気だ、ヤバイぜ」
時すでに遅く、来た扉はもう厳重にロックされてしまい、どんなに強く叩こうがハンドルをどちらに廻そうが、こちら側からはどうやっても開かない。
やがて、加熱モードに入ったのか、熱帯のように暖かだった気温が暑さを増して、さらに熱く変わっていく。
どこをどう叩いても逃げ場がない。
言ったとおり、ここはオーブンの中。
気温がどんどん上がっていく。
パニックに陥りつつも入ってきた扉をよぉく見ると、下の方に小さな覗き窓があった。
それは当然、耐熱ガラス製と思われ、その向こうに恐るべきものの影が写った。
・・・・・・
なりはウサギ並に小さいけれど、あきらかに地球のものとはおもえない、見た事のない生物が、焼釜の中のこちらの様子をうかがっている。
彼らの罠におち、こんな宇宙の焼釜に閉じ込められたのだ。
こんなに熱いにもかかわらず、二人は凍りついた。
あまりの恐ろしさに身体が震え、何もことばを発することができない。
逃げ場はない。
激しくなる熱さ。
いつぞや、いきつけの高級料亭のおかみから聞いた、「どじょう鍋」の話が頭をかすめた。
< 生きたままのどじょうを鍋に入れて煮る >
< やがて鍋ぜんたいに熱さが廻ってくる >
< どじょうは少しでも生き延びようと、まだ煮えていない、具である豆腐に逃げ込む >
< それもつかのま、さいごには、豆腐に逃げ込んだ、どじょうごとおいしく頂く >
・・・・・・
こんな話だったと思ったけれど、いまの俺たちには隠れる豆腐すらないじゃないか。
裸同然の彼らの皮膚が焼かれていく。
床もどんどん熱くなり、はだしではもう耐えられない。
そして意識が遠のいていく。
・・・食虫植物のよう・・・喰われる恐怖・・・人生走馬灯・・・
「人生が終わった」
と感じたその時二人は、薄れていく意識の中で、覗き窓の向こう側の影が急に動くのを感じた。
その様子はテレビや動画で暇つぶしにたまに見た、動物どうしが争う光景のようにも思えた。
そう、瀕死の状態だった、ペットのウェイガーとマスティフがいつのまにか後を追ってきてくれていたのだ。
こんな巧みな誘いで地球人をだます、知能の持ち主の異星人だけれど、ウサギなみに身体は小さく、ウェイガーとマスティフが弱っているとはいえ、襲いかかられると、やがて、路上に轢かれたタヌキのように無残に何匹も床に崩れおちた。
けれど、ウェイガーとマスティフの二匹も最後の力を使い果たしたのか倒れてしまった。
そんな様子を、熱さにすっかりかすんでしまった眼で覗き窓の向こう側にようやく見ることができた。
そして二人もほどなく、狂ってしまいそうなオーブンの中の、とじこめられた熱さに、気を失った。
・・・・・・
命こそ助かったものの、その後のことはよく覚えていないようで、二人はあまりの恐怖に風貌が一変してしまっていた。
気がつくと、彼らは生きて地上にボロ雑巾のように横たわっていたのだけれど、この場所だけは覚えている。
そう宇宙エレベーターの地上ターミナルだ。
来たときは取り巻きと運転手に送らせて、ペットとともに賑やかなターミナルにすべり込み、マスコミに取り囲まれたあの場所だ。
いま、少し離れたここから見るターミナルはひっそりとしていて灯りもなく、小雨まじりでうすら寒く、人の気配もない。
そして彼らの格好といったら、その風貌もさることながら、クッキングシート素材のトランクスしか身につけておらず、しかもそれも破けていてボロボロだ。
あとは、よれよれでしわしわのダンボールを纏っており、あまりの見た目のひどさに、また寒さよけに誰かがかけてくれたのだろうか。
その見た目は彼らが外見からとても嫌っていた、駅をねぐらとする、キタナいホームレスそのもののようにも思えた。
いや、彼らの誰かが見るに見かねてこのダンボールをかけてくれたのかもしれない。
今の彼らを、メディアによく登場している、あの2人のイケメン青年実業家とはだれも思わないだろう。
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