俳優をめざす

コラムと読みもの

 

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ぼくは三男坊で男ばかりの三人兄弟。いちばん上の兄は俳優をめざしていた。

アルバイトをしながら劇団に通っていた兄は、その劇団の広告の看板(新聞、雑誌などによく見るやつ)になったり、テレビのちょい役などもこなしていた。

ちょうどそのころ、高校一年生になったぼくは母のすすめもあって、兄キが通う所とは違う、大手の劇団のオーディションを受けてみる事になった。

 

 

 


 

実家の神奈川からオーディション会場までは電車で2時間程。

劇団の建物でありオーディション会場でもあるそこには、子供から大人までいろいろな人間がオーディションに来ていた。

テストというか審査の内容は年齢によってテーマが違っていたけれど、そのテーマを一人でお芝居するというもの。

単なる出来心からここに来てしまった事にようやく気づいたぼくは、その場で思いつく限り、出来るだけのお恥ずかしい演技を何人もの審査員の人の目が光る前でしてみたけれど、とってつけた感は否めない。

そんな、とりあえずの一人芝居が終わったあと、審査の人からの演技に対しての鋭いツッコミに対して、ぜんぜんうまく受け答えができなかった。

これは落ちたな、終わったな、と思いつつ会場をあとにした。

 

 


 

山手線の某駅までの帰り道を歩いていると、さっきオーディションを一緒に受けていた女の人と目が合った。

高校生のぼくよりも年上で20代のなかば位かなぁ・・なにか自然と寄り添って、いろいろな事を話しながら駅まで歩いていった。

兄キが通っているの劇団のこと、彼女の仕事や住んでる場所とか、ぼくの高校生活の事とか、ごく世間話的な事を楽しく話しているうちにもう駅についてしまったけれど、このまま分かれるのも惜しいので、お茶でもしましょうと言う事になった。

 

 

 


 

この日は日曜日で天気も良く秋晴れの午後だった。

気温もちょうどいいくらいで歩くには最適な気候で、そして相手がいれば言う事なし。

・・というわけで、お茶を終えて店を出てから原宿の街を二人で歩くことになりました。

 

 

今日初めて合ったとは思えない親しみやすさで、腕なんか組んだりして・・恋愛感情はなかったと思うけれど、女兄弟のいないぼくには、こんなお姉さんのような彼女の存在がすごくうれしい事だった。

また、彼女にもきっとぼくは弟のような存在だったのでしょう。

 


 

そんな彼女は今は働きながらひとり暮らしをしていて、劇団に通おうかと思いオーディションに来たという事。

実家でのほほんとおんぶにだっこで、ただの出来心でここに来てしまったぼくとは大違い・・なにかとても前向きな姿勢と言うか、憧れというか、自立したひとりの人間としていいなって思いましたね。

ホントにふとした事から秋の午後の半日をとても楽しく、二人で共有してすごしたけれど、夕暮れが来たのでお別れ。

その日は住所を交換しあってサヨナラしました。

 

 

 


 

それからぼくはごくフツーの高校生活に戻っていき日常に少しずつ埋没し、オーディションを受けた事すら忘れかけた頃に、劇団からオーディションの結果と思わしき封筒が郵送されてきた。

意外やぼくは合格・・してしまったけれど、自分の本気度をよーく考えたうえで、今は通えないという結論になりました。

やる気のあった彼女はもちろん合格したようで、

「これから劇団に通います」

と手紙が届きました。

 

 

おしまい